アナログゲーム制作のコスト

REARV代表理事のとむこです。今回からコラムを掲載していきます。

本日はアナログゲームにおける制作コストのお話です。

■とむこの経験

もともと私、「とむこ」こと酒井宏聡は、カードゲームデザイナーをかれこれ10年やっています。ただ、制作したゲームはほぼ「ギャンパラ」のみなので、他に新しいゲームを作れていないとも言えるのですが、裏では結構な数のゲームをボツにしていまして、秘蔵の企画書フォルダには山ほど企画書が封印されていたりします。


自分がなぜ、新作を作れていないか?といいますと、一番最初のゲームを作るときに非常に精神的な負荷が強く、自信がないのもあってかなりダメージを受けました。それゆえに、運良く?処女作であるギャンパラが想定外のHITをしてしまい、沢山の人に愛されいるので、そこの補助やコミュニティづくりが中心となっていて、「新作を作ることに怯えているため」、新作を作っていない、というのがあります。


これは結構クリエイター業界によくある現象で「1作めがヒットした人あるある」でもあるんですが、ひとまず精神的な部分は抜きに一体何が「負担=コスト」だったか、という話をしたいと思います。

■制作コスト1:印刷費

物を作る、ということはその物を生産する費用がかかります。

印刷物なら印刷費が、コマやトークンであればその代金が必要です。印刷する会社によってまちまちですが、必ずこれは費用としてかかってきます。


私はまずこれを準備するために、親に土下座をして借金しました(もともとニート上がりだったもので)とかく、それなりの覚悟か、道楽や博打に使える資金がどうしても必要ですので、高い買い物をする必要がそこにあります。


まぁ、小規模ゲームならば100セットくらいなら10万から20万あればつくれますかねー。もちろん、制作単価を下げたいならばたくさん作るほど有利ですよ!後で言うけど、在庫という最大の恐怖に直面しますが。

■制作コスト2:手作業

物を売る、ということは売る状態にするための準備に手間暇がかかります。

アナログゲームの場合、制作費を抑えるために自身でカードの丁合作業(カードの仕分け)や梱包作業を行うことがあります。もちろん、業者に丸投げすることも可能ですが、それは非常に費用がかかります。私が依頼している某名刺印刷の会社は丁合費用が非常に高く、「1枚5.1円」もかかります。カードが100枚のカードゲームだと1セット510円です。100個生産で51,000円。結構します。と言っても、ここはカード自体が安いので、丁合だけ特別高いのですが、減らせる費用なので自分でやる作家さんは結構います。


そして、腰痛肩こりに悩まされます。この丁合作業や梱包作業は非常に地道な作業です。何百枚というカードを実際に見ながら、印刷ミスや折れ汚れがあれば取り除いたりしつつ、生産する数だけ手作業が発生しますし、仕分ける前のものや必要素材もまた物理的に倉庫圧迫しますし、それなりに広い場所がないとそもそも作業がはかどらないなんてことも。住宅事情は非常にキーポイントになります。わたしは化粧箱がダンボールで100サイズ40箱届いて、一部屋死にました。

■制作コスト3:在庫リスク

物を作る、ということは在庫を持つということです。

それはすべて売れればその数がそのまま利益に直結しますし、たくさん制作すればするほど単価も安くなります。ですが、すべての物理的商品の販売において「理想通りの売上数を想定する」ことは非常に困難です。初参加の初心者サークルが数百部の在庫を抱えるなんて当たり前レベルの話で苦い人生経験を積んだクリエイターは非常に多いです。


私自体も在庫による不安を抱えたことがあります。それは初参加のゲームマーケットの時なのですが、私はキャリーケースに手作りした100個のギャンパラを物理的に非常に重荷に思いながらゲムマ会場へと向かいました。


「この100個が売れ残れば、持って帰らないといけないのか」という恐怖は今でも鮮明に思い出せます。私は初心者でしたし、ボドゲにも浅かったので、自分の実力なんて一切分からないし、不安でいっぱいでした。


私は運良く、その100個を開幕1時間半で売り切ることができたので、その時は一切持ち帰ることもなく帰れました。その日の夜、ホテルで安堵して、ボロボロに泣いたのも覚えています。本当に救われた夜でした。


この話はいい話で終わりましたが、「カードスリーブ」を2000セット作って、今なお1000セット以上余ってたり、「ファンブック」を作って1000セット近く余ってたり、私も苦い思いを今なお経験中でもあります。

■制作コスト4:移動費・配送費

物を動かす、ということは移動コストがかかります。

地方在住の私は東京のゲームマーケットに行こうとすれば、10万前後覚悟が必要です。新幹線とホテルと送料、その他旅費だけでそのくらいぶっ飛びます。また、イベントに限らず、業者から届くとき、お店に送るとき、顧客に届けるとき、その全てに送料がかかります。それらはたいてい自費になります。某Aからはじまる大手通販サイトもかなり持っていきます。ガチで辛い。


苦い経験例として、クラウンドファンディングです。大成功しましたが、その数だけ配送作業が発生しました。すべて私が手作業で必死に行いました。もちろんこれらも人を頼れば安くすみますが、コミュニケーションスキルかお金が必要ですね。あるいは両方です。レターパックを10万円分買ったとき、地元郵便局とはとても仲良くなれました。

■制作コストの重さと面白さ

以上に述べた以外にも山ほどコストは掛かるし、そもそもデザインやルールのアイデアを考えること、生み出すことを組み入れれば無限大にコストが存在します。


それでもなお、アナログゲーム制作は面白いと言う狂気が自分にはあります。


自分の考えたルールで一喜一憂するユーザー、そこで出会いや別れが生まれて沢山の人が通り過ぎていったり、居場所になったり、時には人との出会いが恋に発展したり、あるいはアンチが生まれて敵対することもあったり、直接的な対面が様々な関係性を生むことがアナログゲームの最大のメリットで、そしてその場を作ること自体がなによりも「神」のような立場を得られて楽しいです。愉しい、とも。


故に、コストを夢で踏み倒していく!!

……というのはまぁ、狂人ならできるんですけれど、実際問題はそれゆえに新作を作れない自分やワナビーもいるわけで解決したいんですよね。


そこでREARVなりに回答を用意しました。

■REARVの回答

メタバースを中心に活動する我々は、VR上でのアナログゲーム体験は、現実世界のアナログゲーム体験と非常に近く、また互換性が十分に存在する環境だと感じています。


純粋なデジタルゲームとして存在するアナログゲームたちも多数ありますが、皆さん体験した通り、そこにプレイヤーが存在していないかのような空虚さや、人を人として扱わない外道なガチ勢、初心者狩り、荒らし、暴言厨など、現実世界のアナログゲームでは絶対に許されない行為が当たり前のように横行しており、おそらく、これはどうあがいてもデジタルゲームが人を見えなくしている以上、発生する課題です。


VRアナログゲームの良さは、デジタルほど便利ではない分、目の前のプレイヤーが確実に存在し、コミュニティも存在し、交流する場所としても機能しているがゆえに、REALと同然の人間関係があります。そこが最大のポイントで上記のような厄介なプレイヤーは除外されやすく、現実と同様に気を遣い合うゲームができているのが素晴らしいと感じている部分です。もちろん、中には空気を読まない人もいますが、そういう人には居心地が悪い世界=厄介者に排他的なので割りと除去られています。


そして、コストの話に戻しますと、

基本的に実際はデジタルデータなのでコピー・アンド・ペーストができます。ここが本当に素晴らしい。一度でも形にしてしまえば、印刷費は存在せず、手作業は一度で済み、在庫も無限に用意でき、作った時点で世界に届く。そう、コストがかからないのです!もちろん、データ制作やプログラム、それらのためのPCやVR機器など新しい知識や道具は必要ですが、REALでの制作に比べたら安いもんです。他にも使えますしね。


もちろん、製造したい、販売したい、そういう夢はみんなあります。手元に自分のゲームが存在することの喜びは確かに存在しますし、人は物理的なものに対しては非常にお財布の紐がゆるいです。コレクションすること自体も喜びですから。


なので、REARVはVR上で人気が出たオリジナル作品を現実世界での流通販売につなげていくサポート自体もやっていきたいと考えています。しかも、企画段階のゼロからもサポートしたいと考えていて、これから様々なクリエイター座談会を起こしていき、クリエイターのファンも増やし、クリエイター自体も増やし、そして、REALとVRのアナログゲームも増やしていく、そういう野望を持っています。


無理にコストをかけたり、夢を追いすぎて失敗してしまう若者を減らしたい。心折れてしまう人たちを救いたい。それがREARVなりに出した回答なのではないか?と考えています。


もっとアナログゲーム制作は楽になっていい。


その言葉を私はアナログゲーム業界に拡げていきます。

どうか、そのご協力を是非お願いします。


一般社団法人 REARV

とむこ(酒井 宏聡)

ご支援はこちらから